「資産はいくらあれば、取り崩しを始めてもよいのだろう」
50代が近づくと、資産を増やすことだけでなく、
貯めた資産をいつから、どのくらい使うかも
気になってきます。
老後のために貯めたお金であっても、
残高が減ることには不安を感じるものです。
そのため、十分な資産があっても取り崩せず、
働いている間と同じように節約を続ける人もいるでしょう。
しかし、資産形成の目的は、通帳や証券口座の残高を
増やし続けることではありません。
将来の生活を支え、必要なときに使うためのお金です。
では、50代から資産を取り崩す場合、
3,000万円、5,000万円、7,000万円で生活は
どのように変わるのでしょうか。
今回は55歳から取り崩しを始め、65歳から年金を受け取る
ケースを中心に、生活費別の目標資産額を考えます。
50代の取り崩しは「65歳まで」と「65歳以降」に分ける
50代からの資産計画で重要なのは、
退職時から年金受給開始までと、
年金開始後を分けて考えることです。
日本年金機構によると、
老齢基礎年金と老齢厚生年金は、
原則として65歳から受け取れます。
55歳で退職すると、65歳までの10年間は、
公的年金に頼らず生活費を準備しなければなりません。
仮に毎月の生活費を25万円、30万円、35万円とすると、
10年間に必要な金額は次のようになります。

運用益、退職金、給与、副業収入などを考慮しない
単純計算ですが、55歳から65歳までの「橋渡し資金」が
どのくらい必要かを把握できます。
50歳から取り崩す場合は、年金開始まで15年間です。
必要額はそれぞれ4,500万円、5,400万円、6,300万円になります。
同じ生活費でも、取り崩し開始が5年早くなるだけで、
必要資金は1,500万~2,100万円増える計算です。
50代といっても、50歳で退職する場合と59歳で退職する
場合では条件が大きく異なります。
「50代なら○千万円あれば大丈夫」と一括りにはできません。
65歳から受け取れる年金はいくらか
日本年金機構が公表した2026年度の年金額によると、
国民年金の満額は1人当たり月7万608円です。
また、平均的な収入で40年間働いた夫と専業主婦の妻と
いう標準的なモデル世帯では、夫婦2人分の老齢基礎年金を
含む年金額は月23万7,279円です。
年間にすると約284万7,000円になります。
このモデル年金を受け取る世帯について、
生活費との差額を計算すると次のようになります。
| 毎月の生活費 | 年間生活費 | 年金との差額 |
| 25万円 | 300万円 | 約15万円 |
| 30万円 | 360万円 | 約75万円 |
| 35万円 | 420万円 | 約135万円 |
生活費が月25万円なら、年金開始後に資産から補う
金額は年間約15万円です。
一方、月35万円で暮らす場合は、
年間約135万円を補う必要があります。
実際の年金額は加入期間、収入、家族構成などに
よって異なります。
標準額をそのまま自分に当てはめず、
「ねんきん定期便」や「ねんきんネット」で
見込み額を確認することが必要です。
3,000万円から取り崩せる金額

資産3,000万円を年間3%ずつ取り崩すと、
年間90万円、月平均7万5,000円です。
年間3.9%なら117万円、月平均9万7,500円になります。
55歳から65歳まで毎月25万円で暮らす場合、
10年間の生活費だけで3,000万円になるため、
資産3,000万円をすべて生活費に充てると、
65歳時点ではほとんど残りません。
ただし、65歳以降の生活費が月25万円で、
モデル年金との差額が年間約15万円なら、
その後の不足額は比較的小さくなります。
退職金や一定の労働収入がある、住宅ローンが完済している、
65歳以降に生活費を下げられるといった世帯では、
3,000万円からの取り崩しも検討できます。
一方、50代前半から完全に仕事を辞める場合や、
住居費、教育費などが残っている場合は余裕が
あるとはいえません。
5,000万円なら選択肢が増える
資産5,000万円を年間3%取り崩すと、
年間150万円、月12万5,000円です。
年間3.9%なら195万円、月16万2,500円になります。
55歳から毎月30万円で生活すると、
65歳までに必要な資金は3,600万円です。
65歳以降の年間不足額を約75万円とし、
それを年間3.9%の取り崩しで補うために
必要な資産を単純計算すると、
75万円÷3.9%=約1,923万円
です。
55歳から65歳までの3,600万円と、
65歳時点で確保したい約1,923万円を合計すると、
目安は約5,523万円になります。
運用益を考慮しない厳しめの計算ですが、
月30万円の生活を続けながら55歳で完全退職するなら、
5,000万円では少し不足する可能性があります。
月数万円の収入を得る、退職時期を少し遅らせる、
固定費を下げるなどの工夫があれば、
5,000万円前後でも現実味が増します。
7,000万円でも生活費によっては十分とは限らない
資産7,000万円を年間3%取り崩すと、
年間210万円、月17万5,000円です。
年間3.9%なら273万円、月22万7,500円になります。
55歳から月35万円で暮らすと、
65歳までの生活費は4,200万円です。
65歳以降の年間不足額約135万円を3.9%で
補うには、約3,462万円が必要です。
両方を合計すると約7,662万円になります。
つまり、7,000万円あっても、55歳から完全退職して
月35万円の生活を長期間続けるなら、
必ずしも余裕があるとはいえません。
反対に、生活費が月25万円程度で年金見込み額が
多ければ、3,000万~4,000万円台でも計画を
組める可能性があります。
大切なのは資産額の大きさを比べることではなく、
その資産で何年間、いくらの不足を補う必要があるかです。
「4%ルール」をそのまま使わない
米国のモーニングスターが公表した退職所得研究では、
30年間の取り崩し、成功確率90%、毎年物価に
合わせて支出額を増やす条件において、
開始時の安全な取り崩し率を3.9%としています。
ただし、この数字は米国市場のデータを前提とした
研究であり、日本のすべての世帯に当てはまる保証は
ありません。
50代前半から取り崩す場合、
運用期間は30年を超える可能性があります。
また、退職直後に株価が下落すると、
安値で多くの資産を売却し、
その後の回復が難しくなる「順序リスク」もあります。
そのため、3.9%だけでなく、
より慎重な年間3%でも資金計画を確認しておくと、
相場下落や長寿への備えになります。
目標資産額は一つの式で考えられる
50代から取り崩す場合の目標資産額は、
次のように分けると整理しやすくなります。
「年金開始までの生活費」
+「年金開始後の年間不足額÷想定取り崩し率」
+「医療・介護・住宅修繕などの予備費」

例えば55歳から月30万円で生活し、
65歳以降に標準的なモデル年金を受け取り、
取り崩し率を3.9%とする場合は、
3,600万円+約1,923万円=約5,523万円
となります。
ここに自宅の修繕、車の買い替え、介護などの
予備費を加えた金額が、一つの目標になります。
実際には税金、社会保険料、物価上昇、運用収益も影響します。
金融庁の「ライフプランシミュレーター」も、
試算結果は将来を保証するものではないと注意しています。
取り崩せるかは資産額だけでは決まらない
3,000万円、5,000万円、7,000万円という数字だけを
見ても、安心して取り崩せるかは判断できません。
確認すべきなのは、次の5つです。
- 何歳から取り崩すのか
- 毎月いくらで生活するのか
- 65歳以降の年金はいくらか
- 退職後も収入があるか
- 住宅、医療、介護などの予備費を確保できるか
50代から資産を使い始めること自体が危険なのではありません。
危険なのは、年金開始までの年数や生活費を確認せず、
資産残高だけを見て判断することです。
目標資産額は、誰にでも共通する一つの数字ではありません。
まずは年間生活費と年金見込み額を確認し、
「いつまでに、何のために、いくら必要なのか」を分けること。
それが、貯めた資産を安心して使い始めるための第一歩になります。
参考資料
※本文の試算は制度の説明を目的とした単純計算です。
税金、社会保険料、手数料、物価上昇、運用損益などは含んでいません。
合わせて読んでいただければうれしいです




