「資産が増えれば、会社を辞める決心がつく」
以前の私は、そう考えていました。
現在48歳。金融資産は約5,800万円まで増えました。
住宅ローンは約2,500万円残っていますが、
今後も資産形成を続け、自宅の売却や退職金まで含めれば、
53歳前後で会社を辞める選択肢は少しずつ現実味を帯びてきます。
それでも、「もう大丈夫だから辞めよう」とは思えません。
資産が5,000万円を超えても、株価が下がれば不安になります。
毎月の給料が入らなくなる生活を想像すると、急に心細くなります。
最近になって、会社を辞める決心がつかない理由は、
資産額だけではないと気づきました。
安定収入を失う怖さ、家族への責任、会社員という肩書、
予測できない将来、退職後の居場所。
今回は、53歳での退職を目指している私が感じている
「お金以外の5つの壁」を、具体的な数字とともに整理します。
資産5,800万円でも安心できない
最初に、現在の状況を整理します。
| 項目 | 現在の状況 |
|---|---|
| 年齢 | 48歳 |
| 金融資産 | 約5,800万円 |
| 目標退職年齢 | 53歳前後 |
| 住宅ローン残高 | 約2,500万円 |
| 想定生活費 | 月35万円 |
| 年間生活費 | 420万円 |
| 65歳以降の夫婦の年金見込み | 月約21万円 |
| 目標とする年間配当金 | 120万円 |
図表1「48歳会社員の現在地と53歳退職後の時間軸」

- 現在:48歳、金融資産約5,800万円
- 退職目標:53歳
- 年金開始:65歳
- 53~65歳:年金のない12年間
- 65~90歳:年金生活を想定する25年間
年間生活費を420万円とすると、
現在の5,800万円は単純計算で約13.8年分です。
5,800万円÷420万円=約13.8年
運用益、配当金、退職金などを考慮しなければ、
53歳から取り崩しても67歳前後でなくなる計算です。
もちろん、実際には資産運用を続けますし、
自宅売却や退職金もあります。
一方で、税金、社会保険料、物価上昇、住宅修繕、
教育、親の介護などもあります。
総務省統計局の「家計調査」によると、
2025年の二人以上世帯の消費支出は、
月平均31万4,001円でした。
私が想定する月35万円は平均より約3万6,000円多く、
年間では約43万円の差です。
ただし、住宅ローンや管理費、教育費などを含めると、
退職直後から大幅に生活費を下げられるとは考えていません。
数字だけを見れば、極端に余裕のある生活を
想定しているわけではありません。
それでも不安が消えないのは、退職が家計だけではなく、
人生の土台を変える決断だからだと思います。
壁1 毎月の給料を失う怖さ
会社員の大きな強みは、
毎月決まった日に給料が振り込まれることです。
株式市場が30%下落しても、会社員収入があれば、
生活費のために運用資産を慌てて売却せずに済みます。
一方、53歳で退職すると、日本年金機構が原則的な
年金受給開始年齢としている65歳まで12年間あります。
この12年間について、退職後の収入別に
必要な取り崩し額を計算すると、次のようになります。
| 退職後の月収 | 年間収入 | 年間取り崩し額 | 12年間の取り崩し額 |
|---|---|---|---|
| 0円 | 0円 | 420万円 | 5,040万円 |
| 5万円 | 60万円 | 360万円 | 4,320万円 |
| 10万円 | 120万円 | 300万円 | 3,600万円 |
月5万円の収入でも、12年間では720万円になります。
月10万円なら、12年間で1,440万円です。
「月10万円くらい働いても大きく変わらない」と
思ってしまいますが、53歳から65歳までの必要資金は、
収入ゼロの場合より1,440万円少なくなります。
年間120万円の配当金も同じです。
ただし、
配当金は企業業績によって減配される可能性があります。
毎月の給与と同じように、将来まで確定している
収入ではありません。
だからこそ、
現在の安定した給料を失うことに怖さを感じます。
資産残高以上に、「来月も収入が入る」という事実が、
心理的な安心につながっているのだと思います。
壁2 家族の生活を守れるかという責任
独身であれば、自分の判断で住居や生活費を変えられます。
しかし、家族がいる場合、退職は自分一人の問題ではありません。
私には妻と子どもがいます。これから教育費、住宅費、
親の介護費用が同時期に発生する可能性があります。
文部科学省の「令和7年度私立大学等の学生納付金等調査」に
よると、私立大学の初年度納付金等の平均は150万7,647円です。
内訳を見ると、授業料が96万8,069円、入学料が24万365円、
施設設備費が17万2,550円となっています。
これには、一人暮らしをする場合の家賃や食費、
パソコン、交通費などは含まれていません。
例えば、大学進学時に初年度納付金約151万円、
住居や生活支援に月8万円必要だとすると、
151万円+8万円×12か月=247万円となります。
子どもの大学進学と53歳退職の時期が重なれば、
年間生活費420万円とは別に、200万円を超える
支出が発生する可能性があります。
さらに、住宅ローン残高は現在約3,100万円です。
自宅を売却すればローンを整理できる可能性がありますが、
予定どおりの価格で売れるとは限りません。売却しなければ、
退職後も住宅ローン、管理費、修繕積立金、固定資産税が続きます。
仮に、教育・住宅・介護に備える予備費として500万円を
別に確保すると、自由に取り崩せる金融資産は、
5,800万円-500万円=5,300万円になります。
予備費を1,000万円確保するなら、
使える資産は4,800万円です。
「資産5,800万円」という一つの数字だけを見ても、
その全額を生活費に使えるわけではありません。
自分は質素に暮らせると思っていても、家族に同じ生活を
求めてよいとは限りません。
家族が望む暮らしと教育について話し合うことが、
退職前の重要な準備になります。
壁3 会社員という肩書を失う不安
会社員として20年以上働いていると、
仕事は収入を得る手段だけではなくなります。
所属する会社、役職、担当業務、取引先との関係。
それらが自分の生活や自信の一部になります。
仮に週40時間、年間48週働いたとすると、
仕事に使う時間は年間1,920時間です。
20年間では、
1,920時間×20年=3万8,400時間になります。
通勤や仕事の準備、時間外の連絡まで含めれば、
実際に会社と関わってきた時間はさらに長くなります。
これだけ長い時間をかけて築いた肩書や人間関係を、
退職日を境に手放すことになります。
野村総合研究所が40~50代の就労者を対象に実施した調査では、
53.0%が「ミッドライフクライシスに直面している、
または直面しているかもしれない」と回答しました。
年代別では40代が52.1%、50代が53.9%です。
また、マイナビの調査では、
昇進やキャリアアップを積極的に求めず、
必要最低限の仕事を続ける「静かな退職」をしている
割合は、40代で44.3%、50代で45.6%でした。
40~50代の約半数が、仕事や残りの人生について
何らかの迷いを抱えていることになります。
私自身も、会社を辞めたいと思う一方で、
会社員でなくなった後に、初対面の人へ自分を
どう説明するのかと考えることがあります。
「会社名+役職」ではなく、「私は何をしている人なのか」を
自分の言葉で説明できるようになることも、退職準備の一つ
だと思います。
壁4 未来を最後まで計算し切れない
退職シミュレーションを作れば、一定の答えは出せます。
しかし、30年以上先まで正確に予測することはできません。
53歳で退職し、90歳まで生きるとすれば、
退職後の期間は37年間です。
現在の年間生活費420万円が変わらないとしても、
420万円×37年=1億5,540万円
になります。
もちろん、65歳から年金を受け取れるため、
すべてを金融資産で準備する必要はありません。
私たち夫婦の年金見込み額は月約21万円、年間252万円です。
53歳から65歳までの生活費は、
420万円×12年=5,040万円
65歳から90歳までの不足額は、
(420万円-252万円)×25年=4,200万円
合計すると、
5,040万円+4,200万円=9,240万円です。
これは運用益、配当金、退職金、物価上昇、税金などを
考慮しない単純計算ですが、53歳退職には9,000万円前後の
資金を支える仕組みが必要だと分かります。
さらに問題になるのが物価です。
日本銀行は、消費者物価の前年比上昇率2%を
「物価安定の目標」としています。
仮に生活費が毎年2%ずつ増えると、
現在の月35万円は12年後に約44万4,000円になります。
35万円×1.02の12乗=約44万4,000円
37年後には、現在の35万円と同じ生活水準を保つために、
単純計算で月約72万8,000円が必要になります。
35万円×1.02の37乗=約72万8,000円
実際の物価上昇率が毎年2%になるとは限りません。
しかし、生活費がずっと月35万円のままという
前提も現実的ではありません。
厚生労働省の2025年簡易生命表では、
65歳まで生存する割合は男性89.9%、女性94.5%、
90歳まで生存する割合は男性26.7%、女性50.8%です。
長生きは喜ばしいことですが、資金計画では
「想定より長く生きる可能性」を考える必要があります。
未来を完全に予測するのではなく、相場下落や物価上昇が
起きても修正できる余白を持つことが重要です。
壁5 退職後に何をするかが曖昧
会社を辞めることは目標ではなく、
その後の生活の始まりです。
現在、仕事と通勤、準備に1日10時間、
週5日を使っていると仮定します。
年間48週働く場合、会社を辞めることで増える時間は、
10時間×5日×48週=年間2,400時間です。
53歳から65歳までの12年間では、
2,400時間×12年=2万8,800時間
になります。
約3万時間を何に使うかが決まっていなければ、
退職後に自由を持て余す可能性があります。
一方で、退職後に月5万円を時給1,200円の仕事で
得ると仮定すると、必要な労働時間は月約42時間、
週約10時間です。
月10万円なら月約83時間、週約19時間になります。
| 月収目標 | 時給1,200円で必要な時間 | 週平均 |
|---|---|---|
| 5万円 | 月約42時間 | 週約10時間 |
| 10万円 | 月約83時間 | 週約19時間 |
週40時間の会社員生活から、週10~19時間程度の働き方に
変えられれば、収入を得ながら自由時間も確保できます。
私の場合は、ブログ、note、Kindle出版、将来の店舗開業
などに取り組みながら、月5万~10万円の収入を目指す形が
現実的だと考えています。
ただし、ブログや出版の収入は毎月一定ではありません。
退職前に月1万円、3万円、5万円と段階的に収入を増やし、
「退職後も続けられる仕事なのか」を確認しておく必要があります。
図表2「資産5,800万円でも決断できない5つの壁」

| 5つの壁 | 判断するための数字 |
|---|---|
| 給料を失う怖さ | 53~65歳の12年間で最大5,040万円 |
| 家族への責任 | 私立大学初年度平均約151万円 |
| 肩書を失う不安 | 20年間で仕事に約3万8,400時間 |
| 未来の不確実性 | 53~90歳は37年間 |
| 退職後の居場所 | 12年間で約2万8,800時間増加 |
退職判断には「お金」と「暮らし」の両方が必要
会社を辞められるかを判断するには、資産額だけでなく、
次の二つを準備する必要があります。
| お金の準備 | 暮らしの準備 |
|---|---|
| 年間生活費420万円の内訳を確認する | 退職後の一週間を考える |
| 現金を1~2年分、420万~840万円確保する | 家族と退職時期を話し合う |
| 65歳以降の年金月21万円を確認する | 会社以外のつながりをつくる |
| 暴落時に何%支出を減らすか決める | 月5万~10万円の仕事を試す |
| 教育・住宅・介護の予備費を分ける | 肩書以外の自分を育てる |
図表3「退職前に必要な2つの準備」

左側に「お金の準備」、右側に「暮らしの準備」を配置し、
両方がそろった先に「納得できる退職」を置く。
資産を増やせば、選択肢は確実に増えます。
しかし、
資産が増えるだけで迷いがなくなるわけではありません。
0私自身、53歳で必ず退職すると決まったわけではありません。
資産額、家族の状況、親の介護、仕事への気持ちによって、
退職時期を延ばす可能性もあります。
それでも、今回「お金以外の5つの壁」を数字に置き換えた
ことで、次に準備すべきことが見えてきました。
53歳から65歳までの5,040万円をどう準備するか。
教育・住宅・介護の予備費をいくら分けるか。
会社を辞めた後に増える約2万8,800時間を何に使うか。
退職後の収入源をつくる。家族と暮らし方を話し合う。
会社以外のつながりを増やす。
そして、退職後にやりたいことを会社員のうちから少しずつ始める。
会社を辞める決心は、ある日突然つくものではないのかもしれません。
資産形成と同じように、小さな準備を積み重ねた先で、
「もう辞めても大丈夫」ではなく、「この暮らしを選びたい」と
思える状態を目指したいと思います。
参考資料
- 総務省統計局「家計調査 2025年平均」
- 文部科学省「私立大学等の令和7年度入学者に係る学生納付金等調査」
- 厚生労働省「令和7年簡易生命表」
- 日本年金機構「老齢厚生年金の受給要件・支給開始時期・年金額」
- 日本銀行「2%の物価安定の目標」
- 野村総合研究所「就労者のミッドライフクライシスに関する調査」
- マイナビ「年代別の静かな退職割合と実施理由」
※本文の試算は、制度や考え方を整理するための単純計算です。
税金、社会保険料、手数料、運用損益などは十分に反映していません。
また、時給1,200円は働き方を比較するための仮定です。
合わせて読んでいただければうれしいです




